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東京高等裁判所 平成11年(ネ)3545号 判決 2000年2月29日

控訴人兼被控訴人(以下「一審原告」という。)

有限会社赤坂ふじや

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

新居和夫

被控訴人兼控訴人(以下「一審被告」という。)

右訴訟代理人弁護士

伊藤次男

主文

一1  一審原告の控訴に基づき、原判決中、一審原告敗訴部分を取り消す。

2  一審被告は、一審原告に対し、金九五五万円及びこれに対する平成七年四月二八日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。

二  一審被告の控訴を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審とも一審被告の負担とする。

四  この判決の第一項2は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  一審原告の控訴の趣旨

主文第一、三、四項と同旨の判決

二  一審被告の控訴の趣旨

1  原判決中一審被告敗訴部分を取り消す。

2  一審原告の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも一審原告の負担とする。

第二当事者の主張

次のとおり、付加、訂正、削除するほか、原判決(更正決定後のもの。以下、同じ。)四頁一〇行ないし二四頁五行のとおりである。

一  一審原告の主張

1  商号関係

原判決九頁一〇行の次に、改行して、次を加える。

(請求原因2の補充)

「 なお、一審被告が右各商号を創作したことはなく、したがって、一審被告が右各商号の使用権を有するなどということもない。東京地方裁判所平成六年(ワ)第一六六三五号遺産確認等請求事件(甲三六)において、一審被告は、右各商号がCの遺産であると主張しており、一審被告に属するとの主張はなかった。」

2  調停の成立関係

原判決二〇頁三行の次に、改行して、次を加える。

(抗弁1に対する認否)

「 右調停の成立後である平成六年九月一九日、一審被告は、Aを被告として、遺留分減殺を求める訴えを提起したが(甲第八号証)、その中で、Cの一審原告に対する債務として、Cの一審原告に対する賃料債務を含む未収入金六〇五一万七四五四円を計上しているが、この事実は、一審被告が右調停時に右賃料債務が一審被告主張の清算条項で清算されたものと考えていなかったことを示すものである。

また、右調停に利害関係人として参加したA、D及びEは、右調停成立後である平成七年三月一一日、Cが一審原告に対して三八二〇万円の未払賃料債務を負っていることを確認する旨の確認書(甲第五号証)を作成しているが、この事実は、右調停に参加したA、D及びEが前記清算条項によりCの賃料債務が清算されたものと考えていなかったことを示すものである。」

3  相互契約関係

(一) 原判決二〇頁八行の次に、改行して、次を加える。

(抗弁2に対する認否)

「 相互契約に関する一審原告の後記二4(一)の主張は争う。」

(二) 原判決二三頁二行の次に、改行して、次を加える。

(再抗弁の追加)

「1ー2 相互契約の合意解約

交換による土地所有権持分移転登記請求訴訟の提起に至る右1記載の経緯により、一審被告とCらとの信頼関係は破綻するに至った。右事件は、昭和五九年三月二六日控訴審である東京高等裁判所で訴訟上の和解が成立し、一応の決着が付いたが、この控訴審の和解期日である昭和五九年三月頃までには、本件相互契約は、その全体が当事者の黙示の合意により解除されたものである。

右和解条項(乙第四号証の一)中に本件相互契約二条及び三条と同様の文言は入れられたが、七条に相当する規定が入れられなかったのは、そのためである。また、その後も、Cはもちろん、一審被告を含む本件相互契約の当事者の誰一人として、この条項を根拠とする主張をすることなく推移したのも、本件相互契約が右のとおり合意解約されたためである。」

二  一審被告の主張

1  立替金返還債権、仮払金返還債権関係

原判決一三頁一一行の次に、改行して、次を加える。

(請求原因1に対する認否)

「 一審原告のCに対する立替金、仮払金のうちには、F(乙三九)がC所有の本件土地一の一部に有していた借地権を買い取るためのものが含まれる。しかし、Cは、後日、立替金、仮払金に相当する借地権を一審原告に取得させているから、右立替金、仮払金は、Cの債務ではない。仮にCの債務であるとしても、一審原告に右借地権を取得させたことによりCの債務は消滅した。」

2  商号関係(請求原因2に対する認否)

(一) 原判決一五頁五行を、「(一) 同(一)の事実のうち、その商号は広く認識されていること、及び一審原告が当審において主張する前記一1の事実は争い、その余は認める。同(二)の事実は認める。同(三)の主張は争う。」と改める。

(二) 原判決一五頁一〇行「係るものである。」の次に、「一審被告は、一審原告の代表取締役であったCに対し、C一代限りとする無償で専用使用を認めたものである。Cの死亡により、右専用使用契約は消滅した。」を加える。

3  調停の成立について

原判決一七頁一行の次に、改行して、次を加える。

(抗弁1の補充)

「 平成六年九月一九日提起の遺留分減殺を求める訴えにおいて、賃料債務が存在するかのような記載があるのは、一審原告の税務申告書の記載を踏襲したまでである。その後に請求の趣旨及び原因を変更するに当たって、家賃債務その他の債務が存在することを撤回している。」

4  相互契約について

(一) 原判決一八頁一行の次に、改行して、次を加える。

(抗弁2の補充)

「 なお、右相互契約にはその出資を受ける順位が記載されているが、それが衝突しない限りにおいてC及び一審被告を含む四人の子が自由に出資金として返還を要しない金銭を受け取ることができるものである。

現に、原判決別紙貸付金推移表二枚目の昭和四九年度別貸付金内訳書には、昭和四九年三月二六日の三五〇万円の貸付は、「赤坂フジヤビル建築についての相互契約書に基づくもの(生活費)」と記載されている。

また、Aは、平成三年二月までに出資金として、報酬名目で九四〇〇万円を受け取っており(乙二九、乙三〇の一ないし一八)、Dも、平成四年二月二九日現在、出資金として、仮払金、貸付金等の名目で四六四五万〇六六二円を受け取っている(甲六)。」

(二) 原判決二三頁一一行ないし二四頁二行を、次のとおり改める。

(再抗弁1に対する認否)

「 本件ビルの建築に伴う資金はすべての諸経費を含め四億五〇〇〇万円以内とする合意であったが、Cは、これを無視して七億円で鹿島建設株式会社に発注する無謀な事業計画を実行しようとしたため、一審被告は担保提供等を拒んだものである。一審原告主張の交換による土地所有権持分移転登記手続請求訴訟(乙一四)は、資金繰りに困った一審原告が、平和相互銀行に対する言い訳のため提起させたものであり、一審は一審被告の勝訴となったものである。」

(三) 原判決二四頁二行の次に、改行して、次を加える。

(再抗弁1ー2に対する認否)

「1ー1 再抗弁1ー2(相互契約の合意解約)について

争う。右和解条項には、一審原告と他の和解参加者(一審被告、利害関係人)との間には清算条項がない。

三  誤記の訂正等

1  原判決七頁八行の「以下「本件土地」という。」を「以下「本件土地」といい、各土地は「本件土地一」のように表示する。」と改める。

2  原判決一七頁一〇行「権利を行使」を「権利行使」と改める。

第三理由

一  次のとおり、付加、訂正、削除するほか、原判決二四頁七行ないし三四頁一〇行のとおりである。

1  立替金返還債権、仮払金返還債権関係

原判決二六頁一一行の次に、改行して、次を加える。

「 一審被告は、一審原告のCに対する立替金、仮払金のうちには、FがC所有の本件土地一の一部に有していた借地権を買い取るためのものが含まれるところ、後日、立替金、仮払金に相当する借地権を一審原告に取得させたことにより、右立替金、仮払金債務は結局消滅した旨主張する。

仮に一審原告主張の立替金返還債権、仮払金返還債権の中に右Fから借地権を買い取るためのものが含まれているとしても、この債務が、Cが一審原告に対し、Fから返還を受けた土地部分につき新たに借地権を設定したことにより消滅するものではなく、その借地権契約の中で権利金等を定め、右権利金等と右立替金、仮払金と相殺することにより消滅するものであるところ、右のような権利金等が定められたことや相殺されたことの主張、立証はないから、一審被告の右主張は理由がない。」

2  商号関係

(一) 原判決二八頁一〇行「その営業を行っており、」から一一行「と、」までを、「営業を行っていること、」と改める。

(二) 原判決二九頁二行「争いがない。」の次に、「弁論の全趣旨によれば、一審原告が使用している「赤坂三田ビル藤会館」及び「三田ビル藤会館」の商号は広く認識されていることが認められる。」を加える。

(三) 原判決二九頁六行の次に、改行して、次を加える。

「 一審被告は、一審被告が登記した各商号は一審被告が考え出したものであり、一審被告の単独所有又はCとの準共有であるところ、一審被告は、一審原告の代表取締役であったCに対し、C一代限りとする無償で専用使用を認めたものであるから、Cの死亡(平成三年一一月一二日)により、右専用使用契約は消滅した旨主張する。

しかし、右主張に沿う乙第四四、第四八号証等は採用することができず、他に右事実を認めるに足りる証拠はないから、右各商号は、その使用を行ってきた一審原告に帰属するものと認めるべきであり、一審被告の右主張は理由がない。

また、一審被告は、仮に右各商号がCの単独所有であるとしても、右各商号はCの遺産に対する寄与分として一審被告に帰属する旨主張するが、右各商号に関する権利が遺産分割により一審被告に帰属したとの主張、立証はないから、一審被告の右主張は理由がない。」

3  調停の成立関係(抗弁1)

原判決二九頁九行ないし三一頁一行を、次のとおり改める。

「 甲一四によれば、平成六年一月一八日、一審被告を申立人、一審原告を相手方、A、D及びEを利害関係人とする東京簡易裁判所平成五年(ユ)第六三号地代請求調停事件において調停が成立したこと、その調停条項の第五項には、「相手方と申立人および利害関係人E、同D、同Aは、別紙物件目録記載(一)、(二)の土地、および同地上建物に関し、本調停条項に定めるほか何等の債権債務のないことを相互に確認する。」との定めがあることが認められる。

しかし、甲一四、一五、乙四の一及び弁論の全趣旨によれば、右成立した調停においては、本件ビルの敷地となっている本件土地につき、申立人(一審被告)及び利害関係人三名と相手方(一審原告)との間には昭和五五年以前から賃貸借契約があったことが確認され、調停時における土地賃貸借契約の内容が確認されていること(なお、調停成立と同時に、賃貸人を申立人(一審被告)及び利害関係人三名、賃借人を相手方(一審原告)とする土地賃貸借契約書が取り交わされている。)、東京高等裁判所(昭和五七年(ネ)第一〇五四号事件)において昭和五九年三月二六日に成立した和解で定められていた本件土地二を目的とする現物出資の予約又は代物弁済予約契約が合意解約されたことなどが認められるものの、本件ビルについての建物賃貸借やCの一審原告に対する未払家賃が問題となり、調停の対象となった形跡はうかがうことができない。そして、前記認定した三八二〇万円というCの一審原告に対する未払家賃債務残高の額からすると、仮にCの一審原告に対する右賃料債務につき右調停事件において清算の対象としたのであれば、賃料債務についても争いがあることが調停申立書における紛争の実情等で触れられ、あるいは調停条項においても明示的に触れられていてしかるべきであると考えられるのに、この点を認めるに足りる証拠はなく、Cの賃料債務を右調停条項第五項の清算の対象に含めるのであれば、そのことを明確にする定め方が可能であるのに、清算条項の定め方も、右に認定した程度のものにすぎない。したがって、右第五項をもって賃料債務が清算され消滅したと認めるには疑問があるといわざるをえない。

かえって、甲八によれば、右調停成立の八か月後である平成六年九月一九日、一審被告(右調停の申立人)は、A(右調停の利害関係人)を被告として、遺留分減殺を求める訴えを提起したが、その中で、Cの一審原告に対する債務として、他の立替金、仮払金債務とともに、Cの一審原告に対する賃料債務及び利息債務の未収入金六〇五一万七四五四円をも計上していることが認められる。一審被告は、右遺留分減殺を求める訴えにおいて賃料債務が存在するかのような記載があるのは、一審原告の税務申告書の記載を踏襲したためであり、その後この主張を撤回した旨主張するが、右賃料債務の有無は一審被告が求め得る遺留分減殺額に影響するものであり、遺留分減殺の訴えの提起に当たりその有無が十分検討されるものであるから、一審被告がCの一審原告に対する賃料債務の存在を認めるような行動をしたことは、右調停事件における清算の対象が何であったかの判断において考慮されざるを得ない(しかも、乙四九、五〇によれば、一審被告がその後の訴えの変更において賃料債務を含むCの債務の存在を撤回したのは、昭和四八年九月の相互契約の締結を理由とするものであり、右調停の成立を理由とするものではないことが認められる。)。また、甲五によれば、右調停に利害関係人として参加したA、D及びEは、右調停成立後である平成七年三月一一日、Cが一審原告に対して、他の債務とともに、三八二〇万円の未払賃料債務をも負っていたこと、及びCの一審原告に対する債務は、右Aら三名と一審被告において共同相続したことを確認する旨の確認書を作成し、一審原告に提出していることが認められる。

以上によれば、右調停条項の第五項がCの一審原告に対する三八二〇万円の未払賃料債務をも清算の対象としていたものと認めることはできず、一審被告の抗弁1は理由がない。」

4  相互契約関係(抗弁2及び再抗弁1、1ー2)

原判決三一頁一〇行ないし三三頁七行を次のとおり改める。

「 一審被告は、一審原告のCに対する各支払は、本件相互契約により生じたものであるから返還を要せず、そうでなくとも、一審被告は本件相互契約上の権利行使により、相殺する旨主張する。

確かに、甲一七の一によれば、昭和四九年三月二六日にCに対し支払われた三五〇万円については、摘要欄に「赤坂フジヤビル建築についての相互契約書に基づくもの(生活費)」と記載されていることが認められ、甲三五によれば、本件相互契約書の五条は、「C、一審被告、E、D、A及び一審原告は、協力して第三者から一審原告名義又はC、一審被告、E、D、Aのうちの一人又は数名の名義で資金を借り入れ、内一〇〇〇万円をC、芳彦、Aに対し、ビル建築中の生活資金として平等に交付する」旨規定され、七条には、前記当事者間に争いのない事実として説示した返還を要しない一審原告からCに対する出資金に関する規定に続き、「ただし、C、D、Aは、五条によって前受した金額を右出資金のうちから控除される」旨規定されていることが認められ、これらの事実によれば、少なくとも右三五〇万円は、本件相互契約が失効していない限り、一審原告からCに交付されるべき出資金から控除されれば足り、返還を要しないのではないかとも考えられる。

しかしながら、甲三五、乙四の一、乙一四及び弁論の全趣旨によれば、昭和四八年九月の本件相互契約により、C、一審被告、E、D及びAは、誠実に協力して本件土地上に一審原告の名義で本件ビルを建築することを前提に、右五名が全員一審原告の取締役となり、右五名が一審原告から支払を受けること等を一旦合意したこと、しかし、その後本件ビルの建築のための資金調達方法や本件土地の権利関係について右五名間で争いが生じ、昭和五一年には、C、D及びEが、一審被告に対し、本件土地についての土地所有権持分移転登記手続請求訴訟を提起するに至り、その他にも、一審被告と一審被告を除く四名との間の訴訟が多数係属したこと、右土地所有権持分移転登記手続訴訟は、昭和五九年三月二六日、控訴審である東京高等裁判所(昭和五七年(ネ)第一〇五四号事件)で訴訟上の和解が成立して終了したが、右和解条項(乙第四号証の一)中には、「一審原告の社員持分はC、一審被告、E、D及びAの五名が均等の割合で有すること」、「右五名は全員一審原告の取締役となり、代表取締役の選任その他一審原告の運営については、有限会社法等の定めを厳格に守って行う」旨を定めた本件相互契約二条及び三条と同様の文言は入れられたが、出資金の交付を定めた七条に相当する規定は入れられていないこと、右訴訟上の和解成立後、一審被告を含む五名からは本件相互契約七条の履行を求められることなく、長年経過していたことが認められ、これらの点によれば、本件相互契約は、右控訴審の和解期日である昭和五九年三月二六日頃までには、全当事者により、黙示的に合意解約されたものと認められる。

右のとおり、本件相互契約は既に昭和五九年三月二六日頃には合意解約されている以上、一審原告のCに対する各支払が本件相互契約に基づき返還を要しないものであるとか、一審被告が本件相互契約に基づく権利行使として相殺をすることができるものであると解することはできないから、一審被告の前記主張は採用することができない。」

二  結論

よって、一審原告の請求はいずれも理由があるところ、これと異なる原判決は一部失当であるから、一審原告の控訴を認容し、一審被告の控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳)

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